Ictus Values® Finderは何が違うのか
「あなたはどんな人ですか」という問いの限界
世の中には、自分を知るためのツールが溢れている。
MBTI、ストレングスファインダー、エニアグラム、VIA。どれも膨大な研究と実績に支えられた優れた手法であり、多くの人に気づきを与えてきた。
しかし、これらの診断が答えようとしている問いには、ある共通点がある。「あなたはどんな人ですか」という問いである。
あなたは内向的か外向的か。あなたの強みは何か。あなたはどのタイプに属するか。
これらはすべて、観察可能な行動パターンや性格特性を測定している。あなたが日常的にどう振る舞い、どう反応し、どう考えるか。その傾向を分類し、名前をつける。
シュワルツ(2012)が指摘するように、特性とは「どのように振る舞うか」の記述であり、価値観とは「何を重要と信じているか」の記述である。創造性を価値とすることと、実際に創造的であることは、別のことだ。
Ictus Values® Finder(IVF)が答えようとしている問いは、これとは根本的に異なる。「あなたは何を大切にしているか」。
行動パターンと潜在的価値観
この違いは、言葉の上だけのものではない。
人間の内面には階層構造がある。意識と行動の階層モデル(Ictus Laboratory, 2025)は、日常の行動から深層の価値観までを次のように整理する。
日々の生活は、感情→思考→行動→感覚→感情という循環ループの中で回っている。ベック(1976)が認知モデルとして体系化した、この自動的な循環。私たちは普段、このループの中で生きている。
このループの外側に、信念(beliefs)がある。「自分は○○だ」「世界は△△だ」という固定化された認識。アーロン・ベックが「スキーマ」と呼んだもの。それは過去の環境で生き延びるために身につけた鎧であり、価値観と日常のループをつなぐフィルターとして機能している。
そして、信念のさらに奥に、価値観がある。
多くの診断ツールが測定しているのは、この信念フィルターを通過した後に観察可能となるBehavioral Patterns(行動パターン)である。MBTIが測るのは認知機能の優先順位であり、ストレングスファインダーが測るのは才能の発現パターンである。どちらも有用だが、測定対象はフィルターの「下流」にある。
IVFが到達しようとしているのは、フィルターの「上流」——Latent Values(潜在的価値観)である。信念によるフィルタリングを受ける前の、根源的な価値観の層。
価値観診断の中での位置づけ
では、同じ「価値観」を測定しようとする診断との違いはどこにあるのか。
シュワルツのPVQ(Portrait Values Questionnaire)は、70カ国30万人以上のデータに裏打ちされた、価値観研究の金字塔である。その測定手法は巧みだ。「この人はこういう人です。あなたはこの人にどのくらい似ていますか?」という形式で、回答者に自分のセルフイメージの中で客観視させる。直接「あなたは○○を大切にしていますか」と聞くよりも、社会的望ましさバイアスを回避しやすい。
バレットのCTT(Cultural Transformation Tools)は、個人と組織の意識発達レベルを測定する先駆的なフレームワークである。7段階の意識モデルによって「どの発達段階にいるか」を可視化し、組織文化の変革に活用されている。
これらの手法にはそれぞれの強みがある。しかし、ある共通の制約も抱えている。
PVQの「この人に似ていますか」という問いは、社会的望ましさバイアスを迂回するが、セルフイメージそのものは迂回しない。「自分はこういう人間だ」という認識——まさに信念——を通じて回答している。信念が正確に価値観を反映していればよいが、そうでなければ、測定されているのは信念を経由した価値観の影にすぎない。
喪失シナリオ——信念の下にアクセスする
IVFの設計思想の核にあるのは、「失ったら自分を許せないもの」という問いである。
この問いが通常の自己評価と異なるのは、喪失を想像させることで、セルフイメージそのものを迂回しようとしている点にある。
「あなたは何を大切にしていますか」と聞かれれば、私たちは自分の信念体系の中から答えを探す。社会的に望ましいもの、自分がそうありたいと思うもの、過去の経験から「大切にすべきだ」と学んだもの。それらは価値観のように見えるが、信念かもしれない。
しかし、「これを失ったら、あなたは自分を許せますか」と問われると、話が変わる。喪失の想像は、カーネマンとトヴェルスキー(1979)のプロスペクト理論が示すように、利得よりも強い心理的反応を引き起こす。その反応は、信念で制御しにくい。鎧の下にある、生の価値観が反応する。
IVFの同点解決フェーズでは、上位価値観のスコアが同点になった場合、「どちらかを手放さなければならないとしたら、より手放せないのはどちらですか?」と問う。この強制選択は、サーストンの比較判断の法則に基づくものだが、同時に喪失シナリオの応用でもある。わずかな優先度の違いを、信念ではなく直感的な反応から引き出す設計になっている。
2次元から3次元へ
理論的な枠組みにも、構造的な違いがある。
シュワルツの理論は、10の基本価値観を円環(circumplex)として配置する。隣接する価値観は両立しやすく、対角に位置する価値観は対立する。「変化への開放性 vs 保守」「自己高揚 vs 自己超越」という2つの軸が、この円環を組織化している。
この2次元構造は、価値観の関係性を明快に示す。しかし、捉えきれないものがある。
たとえば、同じ「達成志向」の人が二人いるとする。一人は承認欲求から達成を追い求めている。もう一人は自己実現の過程として達成を体験している。シュワルツの円環上では、二人は同じ位置にいる。しかし、その動機の質は根本的に異なる。
IVFの基盤であるIctus Values® 3次元モデルは、シュワルツの円環構造を維持しながら、そこに2つの次元を加えた。
Y軸(次元的視点): 物質的か概念的か。バレットの7段階意識モデルとマズローの欲求階層を統合し、「同じ価値観でも、どの意識レベルから追求しているか」を可視化する。欠乏動機から来ているのか、成長動機から来ているのか。
X軸(時間的視点): 過去志向か現在志向か未来志向か。価値観の時間的指向性を表す。伝統や安全は過去志向に、刺激や快楽は現在志向に、普遍主義や博愛は未来志向に位置づけられる。
この3次元空間によって、先ほどの二人の「達成志向」は異なる座標に配置される。一人はY軸の低い位置(欠乏動機・物質的)に、もう一人はY軸の高い位置(成長動機・概念的)に。同じ「何を」大切にしているかでも、「なぜ」「どこから」大切にしているかが異なれば、それは異なる価値観プロファイルである。
価値観エントロピー——葛藤を測る
もう一つ、IVFに固有の指標がある。IVE(Individual Values Entropy)——個人価値観エントロピーである。
バレットは組織の「カルチュラル・エントロピー」という概念を提唱した。組織内で共有されている価値観がどの程度葛藤しているかを測定する指標である。IVFは、この概念を個人レベルに応用した。
IVEは、あなたが最も大切にしている上位5つの価値観が、3次元空間上でどの程度離れているかを測定する。距離が近ければ、あなたの価値観群は調和している。距離が遠ければ、対立する方向性の価値観を同時に大切にしていることになる。
面白いのは、高いIVEが必ずしも「悪い」わけではないことだ。異なる領域の価値観を同時に重視しているということは、内的な対話が活発であることを意味する。それは葛藤でもあり、豊かさでもある。
ただし、自分のIVEの高さを知ること——自分の内部でどのような力が拮抗しているかを知ること——は、日常の迷いや葛藤の正体を理解する手がかりになる。シュワルツが述べたように、価値観が意識されるのは、大切にしている異なる価値観同士が相反するときに限られる。IVEは、その「相反の度合い」を数値化する試みである。
それぞれの手法が照らす光
ここまで、IVFの設計思想を他の手法との対比で説明してきた。しかし、誤解のないように付言しておきたい。
MBTIは、自分の認知的な傾向を知ることに価値がある。ストレングスファインダーは、自分の才能を活かす方向性を示してくれる。PVQは、半世紀の研究に裏打ちされた普遍的な価値観構造を提供する。バレットのCTTは、組織文化の変革に不可欠なフレームワークである。
それぞれの手法が、人間の異なる側面に光を当てている。
IVFが照らそうとしているのは、それらの手法が前提としている層——あるいは、その手前にある層——である。行動パターンの背後にある信念。信念の背後にある価値観。さらに、その価値観がどの意識レベルから発しているのか、時間のどの方向を向いているのか、どの程度の内的葛藤を含んでいるのか。
「あなたはどんな人ですか」ではなく、「あなたは何を大切にしていますか」。 「何を大切にしていますか」ではなく、「本当に失ったら自分を許せないものは何ですか」。
IVFは、その問いの先にあるものを可視化しようとしている。
問い
あなたが「自分の価値観」だと思っているものは、本当に価値観だろうか。
それは、過去の環境で身につけた信念ではないだろうか。社会から期待される理想像ではないだろうか。セルフイメージの中の、都合のよい物語ではないだろうか。
もし、そのすべてを一度脇に置いて、「これを失ったら自分を許せない」と感じるものだけを残したら——そこに何が見えるだろうか。
参考文献
- Barrett, R. (2014). The Values-Driven Organization: Cultural Health and Employee Well-Being as a Pathway to Sustainable Performance. Routledge.
- Beck, A. T. (1976). Cognitive therapy and the emotional disorders. New York: International Universities Press.
- Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47(2), 263-292.
- Schwartz, S. H. (2012). An overview of the Schwartz theory of basic values. Online Readings in Psychology and Culture, 2(1).
- Schwartz, S. H., et al. (2012). Refining the theory of basic individual values. Journal of Personality and Social Psychology, 103(4), 663-688.
- Thurstone, L. L. (1927). A law of compar